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12星座の物語
第九話「直樹と節子 ロスで」
――翌日 オフィス
オフィスに入る直樹、ゆきと出会う。目と目とがあうとゆき、泣きはらした目をしている。
昨晩も思いつめていたのかと気が重くなる直樹。しかしツアーの準備であわただしく一日が過る。夕方仕事を終えて帰ろうとすると、ゆきが小走りに手紙を持って近づいてくる
<ゆき> 今日は前の日だし、きっと会ってもらえないと思って、手紙書いてきたの。徹夜しちゃった。
作り笑いをするゆき
<ゆき> もし時間があったら飛行機の中で読んで。
<直樹> …改めて手紙って何? 気分の滅入るような内容なら、仕事先でなんか読みたくないんだけどなぁ。
<ゆき> うぅん、そんなんじゃないの。ただ私の気持ちが書いてあるだけだから。とにかく気をつけて行ってきてね。仕事だからゆっくりした時間なんてないだろうけど、もしも少しでも余裕があったら、もう一度私たちのこと考えてみてね。
<直樹> わかった。
<ゆき> 本当に、気をつけてね。お酒も飲みすぎないでね。
<直樹> ありがとう。
妙にさっぱりしているゆきの態度に逆に不安を覚える直樹。今読むべきか迷いながらも、ポケットにしまいこむ
――成田空港Fカウンター付近 翌日
節子ツアー客の搭乗手続きを済ませ、皆に搭乗券を渡し、注意事項を説明。少し離れた所で直樹も同様に。直樹、節子を見つけ、軽く会釈。それだけでドキドキする直樹。節子も頭を下げる。それぞれの参加者が散らばっていく。節子すかさず直樹に近づいて来る
<節子> 働いている姿って、やっぱり素敵ね。
<直樹> 君こそ、バリバリのキャリアって感じで、カッコよかったよ。
<節子> あぁあぁ、これが二人の旅行だったらなぁ。でも仕事なのにこうしていられることに感謝しなくちゃ。罰が当たっちゃうよね。
<直樹> そうだね。でもなんだか落ち着かないよね。このごろツアーは年配の人が多いし、今回も何かと苦労が多いそうだね。注文多いからなぁ。
<節子> 若い人は、みんなフリーで旅行するから、どんどん減ってきたよね。
<直樹> いずれ添乗の仕事もなくなるんだろうなぁ。次の対策を考えておかないとね。
<節子> 直樹なら何でもできるから、まったく心配ないじゃない。
<直樹> そうかなぁ。こんなとこで話していても目立つし、コーヒーでも飲む? あっその前に席を隣にしてもらおう。間に合うかな。
急いでカウンターに行き、手続きする直樹
<直樹> OKだったよ。ツイてるね。
<節子> あぁ良かった。ありがとう。
――コーヒーショップ
窓際の席でコーヒーを飲む二人
<節子> お客さんには会いたくないね。こんなところで。
<直樹> そうなんだよなぁ。
<節子> 仕事じゃなかったら、乾杯でもしたいところなのに。
<直樹> そうだよね。まぁそれは今度二人のときにとっておこう。
<節子> それに飛び立っちゃえば、もうOKだもんね。軽く宴会しましょうね。だってこれって記念日のような気がするんだもん。
<直樹> 記念日ね。確かにそうだね。お互い顔に出ないから、こういう時は得だね。
<節子> ホント、ホント。ところで最近、かなり忙しかったんじゃない?
<直樹> うん、そうだね。まぁ色々バタバタと…。
<節子> 私も。何しろあんな試験を受けることにしたでしょ。やっぱり仕事しながらって結構きついよね。
<直樹> そりゃそうだよ。でも節子は根性あるからなぁ。絶対大丈夫だよ。
<節子> とんでもない。ありそうに見えるかもしれないけど、持久力ゼロなのよ。それが私の欠点。だからエネルギーのあるうちにやるしかないのよね。持っている力を一点に集中できるうちに頑張るわけ。だから早くしなくちゃ、今しなければと焦っちゃうのよね。
<直樹> そういうのはオレにも言えるなぁ。ただそこまで強いエネルギーはないけどね。
<節子> うそぉー、そんなことないでしょ。だって何でもできる人じゃない。
<直樹> ということは、すなわち、常に気持ちが分散しているって事なんだよね。
<節子> そうかしら。直樹は器用貧乏じゃないもん。何でもプロ級にできるじゃない。
<直樹> それは過大評価だな。化けの皮がはがれないうちに、えっと話題を変えて(笑) 到着後はお互いすぐツアーだね。結構きついよね。時差がある国はこれがね。
<節子> 本当にそうよね。特に日本人は、外国に来たからには目一杯みたい人が多いからね。夕方ホテルに戻ったら、もうダウンかもね。
<直樹> まぁ向こうに着いたら考えよう。ホテルも同じだし。じゃそろそろ戻ろうか。
<節子> そうね。
――搭乗口
ツアー客も次々に搭乗する。全員乗るまで待つ二人。全ての搭乗を確認。二人も機内へ
――機内
皆の着席を確認。二人も着席。シートベルトを締める
<節子> 離陸なんて何度も経験しているのに、好きな人と、一緒にって、やっぱり全然違うなぁ。いつもはね、私、離陸の瞬間が大嫌いなの。でも今日は落ちてもいいや、何て思っちゃっているものね。不思議。
<直樹> ちょっと、ちょっと、そんな縁起でもないこと言わないでくれよ。
<節子> でも気持ち一つで世界ってこんなに違って見えるのね。
<直樹> それは言えるよね。一つのことがキラキラと輝いて見えたり、まったくつまらなく感じたりね。ただ相手が違うだけでね。
<節子> やっぱり経験者は違うわよね。かなりそんな思いをしたんでしょ。
<直樹> そんなことはないけど、ただ節子といると全てがキラキラと見えるから、そう言っただけ。
<節子> もう、そういうキザなことをすぐ言えるんだから。どうやればそんな言葉がパッパッパっと出てくるの。私は駄目だな。もう少しロマンチックにならないとね。単刀直入すぎて、怒られているのか愛されているのか相手がわらないくらい。
二人目を合わせて笑う
<直樹> そんなことないよ。その正直でストレートな表現こそ、節子の魅力だもの。節子が突然「あなたはまるで光輝く星のようです」何て言い出したら、噴出しちゃうでしょ。
<節子> やだぁ、失礼な。私だって決めるときは殺し文句の一つや二つあるんですから。
<直樹> わかった! 「死ぬほど好きです。殺し文句です」じゃないの?
<節子> もう、話になんない。いつか聞かせてあげるから。私に惚れちゃっても知らないからね。
<直樹> そりゃ、本望だね。でももう惚れちゃっているから、時すでに遅しだね。
微笑む二人
<直樹> さーて、ちょっと仕事するか。
<節子> そうね。
おもむろに立つ二人。ツアー客の様子をチェックして、入国カードを配る
――ロサンジェルス 空港
それぞれ別のバスでツアーに出発する
――ホテル 夕方
節子部屋に行くとメッセージのランプが点滅。再生する。テープから直樹の声。
「こちら夕食6:00。8:00より自由。もう一度電話します。」
それを聞いて節子シャワーへ。しばらくして電話のベルが鳴る
<直樹> お疲れさま、メッセージ聞いてくれた?
<節子> うん。8:00ね。私もそれで大丈夫。どこにしようか。
<直樹> 目立つとまずいよね。
<節子> そうよね。じゃ部屋に来る?
<直樹> わかった。じゃそうする。
――ホテルのレストラン
ツアー客と食事をして、部屋に戻る節子
部屋のベルが鳴る
<直樹> ごめん。ちょっと遅くなっちゃって。
<節子> お疲れさま。どうぞ、入って。
節子いきなり直樹に抱きつく
<節子> あぁ嬉しい。本当に会いたかった。とにかく座って
照れ笑いの直樹
<直樹> ありがとう。さてどうしようか。どこかに行きたい? それともルームサービスで派手にいく?
<節子> 賛成。ここで楽しみましょう。誰にも見つからないし。
はしゃぎながらルームサービスのメニューを持ってくる節子。オードブルを注文。 直樹、袋の中からビールを取り出す
<直樹> こんなこともあるかなぁと思って。用意しておいたんだ。バドだけど好き?
<節子> さすが、ありがとう。バド好き好き。じゃまずは乾杯!!
直樹、微笑みながらも何となく落ち着かない様子
<節子> ねぇ。何か心配事でもあるの。
<直樹> えっ、どうして。全然。こんな幸せなのにそんなことあるわけないじゃない。
<節子> そうなの。そうならいいけど、時々思いつめた表情をするから。
<直樹> そう。そういう顔なんだよね。ニヒルって感じ?
<節子> もうー、すぐ冗談でごまかして答えてくれないんだから。
<直樹> なんだか刺激的だね。出会ったばかりなのに、もう2回も海外でこうして過ごしている。
<節子> そうね。あぁ早く現実的なことは全て終わらせて、ゆっくりしたいなぁ。試験も合格したいし、そうしたら、一緒に会社も始めたいし…。
<直樹> 一緒に何か出来たら最高だね。特にこんな素敵で聡明な女性とね。
<節子> やぁだぁ、また。でもそう言われると、なんだかとってもいい気分だけどね。
たわいもない冗談で盛り上がる二人。二人になったからとすぐに迫ってこない直樹の態度に、爽やかさを感じる節子、そしてそんな彼を余計セクシーだと感じる。自分からキスしようかと迷う節子
<直樹> ずっとこうしていたいけど、部屋に戻って一仕事してくるかなぁ。メールもチェックしてないし。
<節子> そうよね。ちょっと片付けてから、もう一度会おうか。終わったら来て。
<直樹> うん、わかった。じゃ急いで終わらせるからね。一時間以内には戻るよ。
<節子> わかった。じゃ私も頑張って終わらせるね。
節子ドアまで送る。直樹節子の唇に軽くキスする
節子ドアを閉めて、独り言
「ずっと楽しみにしていたのに。もう…、さっぱりした男だなぁ。抱きしめてくれればいいのに」
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