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12星座の物語
第六話「直樹と節子 一夜」

――直樹の会社
翌日の夕方。直樹の携帯が鳴る。斜め向かいのデスクにいるゆき。横目でチラッと直樹を見る

<直樹> もしもし。
<節子> 小山です。昨日はメールどうも。今、私、外からなんだけど。そちらはちょっと話しにくいでしょうね。
<直樹> ちょっと待って下さいね。
直樹、席を離れ廊下に

<直樹> 廊下に出たからもう大丈夫だよ。
<節子> 良かった。メールしようと思ったんだけど、早く決めたいと思って、電話しちゃったの。今晩、時間ある? だって明日休みでしょ。
<直樹> あぁ覚えていたの。そうなんだよね。君もだよね。今晩、勿論OKだよ。
<節子> じゃあ、7時に渋谷の109の前。あぁごめん。やっぱりあそこはすごく混んでいるから、ハチ公口の横にある交番の前でいいかな。
<直樹> 了解。じゃ楽しみにしているよ。
<節子> それじゃ後で。仕事頑張ってね。
<直樹> ありがとう。君もね。
思わずニヤニヤする直樹。それを見つめているゆき。何かあると感じるが、聞き出せない。上機嫌で仕事に取り掛かる直樹。ますます不安になり、ゆきは仕事が手につかない。

退社時間のオフィス。みんな帰り支度を始めている

社員お疲れさま。
一人二人出ていく。書類を片付けている直樹に近づいて行くゆき。

<ゆき> もう帰れる? 一緒に帰らない?
<直樹> ごめん。今日はちょっと用事があるんだ。先に帰って。
<ゆき> 用事って? 仕事? それとも…。デート?
<直樹> そんなようなものかな。
急に泣き出しそうになるゆき。直樹の腕を掴み甘えるように言う

<ゆき> 今言ったこと嘘でしょ? それとも本当にデートなの?
直樹、ゆきの手を押し退け

<直樹> ちょっと場所をわきまえてくれよ。ここは会社なんだよ。みんな何事があったかと思うじゃない。とにかく出よう。
オフィスを出て行く二人。エレベーターへ向かう。エレベーターの中、同僚が沢山乗っている。二人無言

――会社の近くの路上
直樹、皆からあまり見えない所まで歩いて行く。立ち止まる

<直樹> ねぇ、一言、言っておくけど、たとえ今日デートだとしても、男と出かけるとしても、何故いちいちゆきに言わなければいけないの? そりゃ僕たちは付き合ってるかもしれないけど、だからといって…
<ゆき> 私そんな意味で聞いたんじゃないわよ。言わなければいけないなんて。ただ、どこへ行くのかなぁって。それがそんなに怒られること?
<直樹> でも僕はそういうのがすごく嫌なんだよ。何か常に束縛されている感じで。
<ゆき> そうかしら。でも、、もう少しは、私の気持ちもわかって欲しいわ。2年も付き合っている仲で、そのぐらいのこと聞いたって当然だと思うけど…。
<直樹> 僕は年月の事なんて関係ないと思う。たとえ、10年一緒にいたとしてもね。付き合っているからって、相手に対して女房づらしたり、亭主づらしたりっていうのは 大嫌いなんだ。自分の付属物のようにね。常に相手と、どうなるかわからないような緊張感が欲しいと思うんだ。
<ゆき> 理論的にはそうかもしれない。でも私は出来ない。出来ないのよ。好きになったら、相手の全てが欲しいの。
<直樹> それは僕だってそうだけど、きっと表現形が違うんだろうな。ゆきとは。とにかく、今日はこのくらいにしておこう。もう時間もないし。
<ゆき> 本当に勝手なんだから。言いたいことだけ言って。それなら一つだけ答えて。
ゆき、直樹を見つめながら

<ゆき> じゃ、もし私が同じようなことをしても、なおちゃんは平気なのね。
<直樹> そりゃそうだよ。勿論、嬉しいわけじゃないよ。でも僕に何の権利があるの。ゆきを止めるだけの。たとえ、僕が君の旦那だとしてもね。他の人を縛る権利なんて。それにどんなに止めたって、人間というのはしたければしてしまうし、どんなにやきもちを妬いても縛っても、他の人に移りたければ、移っていっちゃうんだよ。せつないけどね。だから、そんなせせこましい事を心配するより、少しでも自分自身を磨いて、常に相手を満足させるだけの魅力を持てるように、努力する方がずっと建設的だと思うけどな…。
<ゆき> そんな風に割り切って考えるなんてできない。人を好きになるって、もっと感情的なものじゃない。
<直樹> 割り切っているんじゃないんだよ。わからないかなぁ。
<ゆき> 私はただ他の女の人に会って欲しくないの。私には二人の世界だけあればいいの。そこには誰にも入って欲しくないの。
<直樹> もうわかったよ。そんなに心配しないでよ。僕の言い方も悪かった。大学時代の友達が急に東京に来たから会いに行くだけなんだから。
<ゆき> ほんと?
<直樹> 嘘を言ってもしょうがないだろ。
<ゆき> 私も行っちゃだめ?
<直樹> だめじゃないけど、学生時代の話ばかりだからつまらないよ。きっと。
<ゆき> そうね。わかったわ。そのかわり、私にも2~3日中に、必ず時間作ってね。
<直樹> うん。じゃ行くよ。時間ないから。
直樹、どんどん嘘が出てくる自分に呆れる。しかし、今日の節子との約束のことだけで頭が一杯だった。ゆきは先に行って、というように手を振る。直樹、小走りに駅に向かう

ゆき、後を付けていくべきか迷う。真実を確認したい気持ちと同時に、知ったら平常心で居られる自信もなかった。そしてそれが、直樹に知られたら、それは二人の関係の終わりをも意味していた。結論の出ぬまま、ゆっくりと歩き始めるゆき

――渋谷
行き交う人々 交差点 直樹、息を切らせて渡って行く。節子を探す直樹。見つからない、もう一度探す。人込みの中で大きく手を振っている節子を見つける。走って行く直樹

<直樹> ごめん、待った?
<節子> ちょっとね。でも私が早く来すぎちゃったの。会える!と思ったら嬉しくって。
<直樹> それは光栄だなぁ…さ~てまずは……
<節子> 任せて。渋谷はちょっと詳しいんだから。お好みは? わぁ~っと騒げるとこ? それとも静かなとこ?
<直樹> お姫様と二人で居られるならどこでもいいよ。
<節子> もう…相変わらず上手なんだから。じゃ私が決めちゃうわよ。
さっさと歩き出す節子。横に並ぶ直樹

<直樹> 仕事の方はどう? 忙しい?
<節子> まぁまぁ。でも今は仕事より例の試験の準備がね。もう頭がごちゃごちゃ。
<直樹> 本気でやることにしたんだ。さすが行動力があるんだね。
<節子> 受かるかどうかはわからないけど、10月だしね。でもとにかくするしかないね。
<直樹> 君なら一発だよ。もし僕に手伝えることがあったらいつでも言って。資料とか、結構揃っているから。そうかやっぱり受けるんだ。じゃしばらくは、あまり会えないね。
<節子> いやだぁー、変なこと言わないで。それとこれとは別。そんなこと言うなら試験はすぐ止める。私は一番大切な事が何かが、はっきり見える性格って言ったでしょ。
<直樹> ごめん、ごめん。僕もこんな言い方をする奴が、一番嫌いなのに。しかも僕こそ会わないでいるなんて、出来るわけないのに。
そうでしょ、と言うように笑う節子。子供のようにストレートな性格にのめり込んでいく直樹。店に着く。ロックのライブバンド。あちこちに煙草の焼け跡、落書きが彫ってあるテーブル。二人席に着く。節子、生ビールを注文する。この男性的なリードに直樹は新鮮な魅力を感じる

<節子> 乾杯!
グラスを合わせる二人

<直樹> 冬でもビールってうまいよなぁ~。単に酒が好きなだけだったりして。
<節子> それは言えるね。とにかく美味しい~! それはそうと、また日本脱出?
<直樹> うん。それがなんとロス。
<節子> えっー、じゃまた私たち同じとこ?
<直樹> でもこれは偶然じゃなくて、この前、君が次のコースがハードで、ちょっと変更してもらうって言ってたじゃない。その時ロスに行くことがわかったから僕もちょっと手を打ったというわけ。
<節子> さすが、ありがとう。もしかして出発も同じ日?
<直樹> その通り。
<節子> 嬉しい! 仕事に私的な事をはさむのはいけない、なんて、いつも後輩に言っていたのに。笑っちゃう。でも嬉しいなぁ!! 今度コース持って来るね。
<直樹> ほとんど同じじゃないかなぁ。一般的なとこだもんね。
<節子> そうよね。
急に深刻そうな顔をする節子。何かを考え込んでいる時にいつもするように、眉間に皺を寄せて天井を見つめる

<直樹> 急にどうしたの? スケジュールを合わせたこと、それとも僕が何か変なこと言った?
<節子> ううん、そうじゃないの。ちょっと気になっていることがあって…
<直樹> 何? もし良かったら、話してくれない。
<節子> 本当はこんなこと聞いてもしょうがないとは思うんだけど、でもやっぱり、もう一度だけ聞いておくわ。彼女はいないの?
ちょっと黙り込む直樹。宙を見つめている

<節子> いるのね。いいや、わかった。
わざと吹っ切るように言う節子

<直樹> 隠したり、嘘をついてるわけじゃないんだけれど、彼女というのはどういう 意味で聞いているの? 君より好きな人という意味? 付き合っている人という意味?それとも結婚を考えている人という意味? 色々あるでしょ?
<節子> そんな、ぐちゃぐちゃした理論じゃなくて、イエスかノーか。いるか、いないか。これ以上、明白には説明できない。石和さんだって、本当はわかっているはずよ。でももし、私が石和さん的スタイルで質問するなら、私より一緒に居たいと思う人がいる?
<直樹> いない! 絶対にいない!
<節子> わかったわ。これですっきりした。これくらいで許してあげましょう。
<直樹> じゃ今度は僕から同じ質問をする。君はどうなの?
<節子> いない! どんな表現を使ってもいない。とにかくいない二人ということで、もう一回、乾杯といきますか。
外に出る二人

<節子> わぁびっくり。雪が降ってたんだ。雪っていいわね。本当にロマンチック。嫌なことは全部連れ去っていってくれる気がする。何だか涙が出てきちゃう。
空を見上げて両手を広げる節子

<直樹> 綺麗だよね。純粋な気持ちを蘇らせてくれる…まるで君のようだ。
節子じっと直樹の目を見つめる。そして手をにぎりしめる。直樹その手を引き寄せて節子を抱きしめ口づけする。直樹のスマートなリードに、節子全身の力が抜けていく

<直樹> こんなきれいな夜って滅多にないよね。もっと雪に近い所、最初に降ってきた雪が見える所に行こうよ。東京で一番高い所。
<節子> それって東京タワー? でもこの時間じゃもう無理よね。じゃホテルの最上階のバーというのはどう?
<直樹> いいね。
タクシーを拾う二人。ボテルの前に着く。慌ててエレベーターに乗り、最上階のバーに向かう

<直樹> すみませんが、窓の近くの席にしていただきたいんですけど、空いてますか?
<ウェーター>はい。ございます。ただ、12時が閉店なんですが、よろしいでしょうか?
<直樹> 結構です。
<ウェーター>ではこちらへどうぞ。
<節子> わぁステキ! 窓の側がとれるなんてホントにラッキー。12時までよね。あと40分。あぁ、きれい。東京にもこんないい所があるのね。勿論、誰と来ているかが一番大切だけれどね。
<直樹> それは同感。でも良かった、喜んでくれて。ここはカクテルがおいしいと思うよ。なに注文する? 任せてくれる。
<節子> うん。よろしく。
ウェーターを呼んで注文する直樹。カクテルが来る。いつものように乾杯する二人。カサブランカの映画を真似て直樹「君の瞳に乾杯」とおどける

<直樹> ねぇ今から一生をかけたジャンケンをしない?
<節子> それ何?  一生をかけたなんて何だか恐ろしいな。
<直樹> 単純なこと。もし僕が勝ったら一つだけ、たとえそれがなんであっても、僕の言うことをきいて。その代わり、もし君が勝ったら僕もそれが何であってもきくから。
<節子> それだけは駄目とか言えないわけ?
<直樹> 言えない。だから覚悟を決めてからにして。嫌なら今のうちに言った方がいいよ。契約不履行で訴えられちゃうから。
笑う節子。と同時に真顔で真剣に考えている

<節子> わかった。やる。もうこうなったら運命共同体ね。何回のジャンケンで決めるの?
<直樹> もちろん一回。
<節子> 怖いなぁ。
<直樹> 嫌だったらやめていいんだよ。ほんとに。
<節子> やる、やりますよ。シラフじゃなくて良かった。飲まなきゃとてもできないわ。
<直樹> じゃいくよ。 二人ジャンケンポン! あいこでショ!
<直樹> 勝った勝った!
<節子> どうしよう。もういい、早く言って。
一瞬黙る二人。直樹は節子を見つめもう一度外の雪を見る。そして

<直樹> 今日ずっと一緒にいて欲しい。
<節子> えっ、実はもし勝ったら、私も同じこと言おうと思っていたの。
<直樹> 君は本当に正直だ、馬鹿がつくくらい。普通だったらきっと「しょうがないわね。あなたが勝ったんだから」といった態度をとると思うよ。
<節子> ねぇ、どうせなら今日は豪華にこのホテルに泊まりたいなぁ。
<直樹> 勿論そのつもりだよ。上の方の部屋がとれるといいんだけど。とにかくフロントに行ってくるからここで待ってて。閉店前には戻るから。
走っていく直樹 外の雪を見つめる節子。
直樹なかなか戻って来ない。かなりたって直樹小走りに戻ってくる。

<節子> どうだった部屋取れた?
<直樹> 一番気に入った所が取れた。今日は怖いくらいラッキーな日だなぁ。
閉店の音楽が流れる。二人席を立ち部屋へ向かう。直樹部屋の鍵を開ける。節子の背中をそっと押し、先に入れる。正面には大きな窓、東京タワー、そして夜景が広がっている。ベッドの上には花束とカードが置いてある

<節子> これ何かしら。何だか海外のホテルのサービスみたいね。
<直樹> そうだね。読んでみれば。
<節子> 「世界中で一番大切な節子へ またとない夜をありがとう。」
節子、直樹のところへ走っていって抱きつく

<節子> でもどこで買ってくれたの。こんなにきれいなお花。
<直樹> それは秘密。人生謎の部分がないとね。シャワーにでも入ってリラックスしたら。お先にどうぞ。
<節子> じゃそうします。なんだか緊張しちゃうなぁ。
節子シャワーから出てくる。バスローブを着ている

<直樹> もう聞き飽きているだろうけど、美人は何をしてもきれいだね。
<節子> ほんと口が上手ね。どうぞ石和さんも浴びてきて。
節子ベッドにもぐりこんでいる。直樹シャワーから出てくる。そっとベットに入ってくる。直樹の垢抜けた、洗練されたリードに、どんどん開放的になっていく節子。直樹も節子の素直な反応に、一層、愛おしさを感じる。

翌朝 ルームサービスの朝食を食べる二人。ずっとじゃれあっている

<直樹> 今日はこれからどうする?
<節子> チェックアウトしたらまっすぐ帰る。あんまり長くいると飽きられちゃうからね。
<直樹> 飽きるなんて。
<節子> 絶対ない? 嘘ばっかり。私だって少しはわかるのよ。
<直樹> でも、君にはないよ。少なくとも。
<節子> その言葉は嬉しいけど。今日は勉強しなくちゃならないから。
<直樹> そうか。じゃ僕も今日は一人でゆっくりすることにする。
<節子> 本当に楽しかった。こんな高級ホテルで、しかも最高の相手と。夢のような時間をありがとう。
<直樹> 僕こそ。君に出会えたことに心から感謝している。
――六本木駅

<節子> じゃまた連絡するね。石和さんも時間があったらメールでもして。
<直樹> 勿論だよ。でもその石和さんはそろそろ止めてくれないかなぁ。
<節子> そう。じゃ直樹でいいかなぁ。
<直樹> うん、そのほうがいいなぁ。僕も節子と呼ばせてもらう。
<節子> OK。じゃ直樹、またね。

手を振る節子。節子の後姿を見送る直樹


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