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12星座の物語
第十二話「ゆきとの別れ」

直樹、帰国後、会社に直行。上司のもとに行く

<上司>お疲れ様。今日は疲れているだろうから、報告書と清算が終わったらすぐ帰っていいよ。
<直樹> ありがとうございます。そうさせていただきます。今回はクレームもなく、順調なツアーでした。
<上司>君が行ってくれれば、とにかく安心だ。お客さんの評判も抜群だからなぁ。
<直樹> ありがとうございます。そう言っていただけると、嬉しいです。
席に戻る直樹。ゆき、手紙を読んでどう思ったのか、心配そうに直樹の表情を伺う。直樹はゆきの顔を見て、軽く微笑む。ゆき、それを見て安心する。しばらくすると携帯に直樹からメールが入る

(直樹のメール)
ただいま。元気だった?
手紙のことについても話したいし、明日時間あったら会わない?もしよければ、ゆきの部屋に行くけど。

ゆき、どんな話しになるのかと不安を抱えながらも、メールをくれたことが嬉しく、すぐ返事を送る

(ゆきのメール)
お帰りなさいメールありがとう。
明日、勿論大丈夫です。家で待っているね。たぶん8時頃だよね。

直樹、メールを受け取り、了解というようにゆきに軽く目配せする。そんな小さな直樹の仕草にもゆきは嬉しくなる


翌日 別々に会社を出る二人。ゆきは定刻に、直樹は一時間ほど残業をして、ゆきのマンションに向かう

――ゆきの部屋
ベルが鳴る。ゆき慌てて確認して、鍵を開ける

<ゆき> お疲れさま。残業していたから、もっと遅くなるんだと思った。
<直樹> 思ったより早く終わったんだよね。
<ゆき> 鍵、持ってなかったの? まぁとにかく早く入って。あんまり時間がなかったから、たいしたものは用意できなかったけど。ほら、これがこの前話したソファ。直ちゃんが好きそうだと思って。覚えているでしょ。
<直樹> うん。覚えているよ。
自分のために購入したというソファ。どうやって別れ話を持ち出したらいいのか、戸惑う直樹

<ゆき> どう。座ってみて。好きだと思うんだけどなぁ。
<直樹> あぁいい座り心地だね。でもゆきも好きなんでしょ。このソファ。
<ゆき> うん。勿論。嫌いだったら買わないもん。
<直樹> それは良かった。安心したよ。
<ゆき> 何で、変なの、直ちゃんたら。
ゆき、用意しておいた料理をテーブルに運ぶ。手紙について話し始められるのが怖く、とめどなく話し続けるゆき

<ゆき> 飲み物はどうする? ビール?
<直樹> そうだなぁ。じゃ一杯だけもらおうか。
<ゆき> 何で? 一杯だけなんて言わないで、どんどん飲んでよ。たくさん用意してあるからね。
<直樹> ありがとう。
ゆき、直樹と自分のグラスにビールを注ぐ

<ゆき> じゃ乾杯
<直樹> 乾杯
話さなければいけないことを避けている二人。何となく気まずい空気が流れる。ゆき、それを断ち切るように

<ゆき> そうそう、これが前話した新しいスピーカー。直ちゃんの好きなボサノバでもかける?
<直樹> 何でもいいよ。ゆきの好きな曲にすれば。
<ゆき> いいよ。ボサノバにしよう。いい音でしょ。このスピーカー。
ゆき、わざと明るく振舞う

<直樹> そうだね。
ためらいながらも、直樹ついに話を持ち出す

<直樹> ゆき、この前くれた手紙に書いてあったこと、それから僕達のこと、今日は色々と話したいと思っているんだ。冷静に聞いて欲しい。
<ゆき> 今すぐ話すの。夜は長いし、もう少ししてからにしない。
<直樹> いや、今話さないと、又この機会をなくしてしまうと思う。
<ゆき> 不安そうに直樹を見つめる

<直樹> 実は…ゆきが心配していた通り、今、他の女性とも付き合っている。いつも言おうと思っていたんだけど、自分でも気持ちが整理できていなかったんだ。だからゆきに何と伝えたらいいのか、わからなくて。
<ゆき> それって、私が見た、あの女性?
<直樹> うん。
<ゆき> いつから続いているの?
<直樹> エジプトに行った時に会ったんだよね。
ゆき、疑ってはいたものの、直接、直樹の口からそれを聞き、言葉を失う

<直樹> ゆきを傷つける結果になってしまって、本当に悪いと思っている。ゆきはオレを想い続けていてくれたのに、それに答えることができなかったね。でも努力はしたんだよ。でもどうしようもなかった。
<ゆき> ちょっと待って。そんなに一方的に。どうしようもなかったってどういう意味なの?
<直樹> 彼女を心から好きになっちゃったんだよね。
<ゆき> 直ちゃんが彼女をどんなに想っているかなんて話、私は聞きたくない。
<直樹> それはよくわかっている。でも話さないわけにいかないだろ。
<ゆき> 私の何がいけなかったの? 何が直ちゃんの心を離れさせたの?
<直樹> ゆき、これはゆきが悪いわけじゃないんだよ。ゆきは何も悪いことはしていない。むしろわがままなオレと、いままでよく一緒に居てくれたと思う。
<ゆき> じゃ何故、何故なの?
泣き出すゆき。動揺する直樹。優しい言葉をかけたくなるが、それがことを複雑にすることはよくわかっていた。気持ちを断ち切りわざと冷たい態度で接する

<直樹> じゃ何も言わないで続けているのがいいの? そんなことはできないじゃないか。
泣きながら言葉を詰まらせて話すゆき

<ゆき> だってどっちにしろ、両天秤かけてたんでしょ。私と付き合いながらも彼女と関係も持ったんでしょ。不潔、不潔よ。
両手で顔を押さえながら、ヒステリックに泣き叫ぶゆき。しばらくすると我に返ったように話し始めるゆき

<ゆき> わたしね。夢があったの。直ちゃんと家庭を持って、子供を生んで、ずっと一緒に暮らして生きていきたいって思っていたの。一緒に年をとって、それでもお互いを支えあってね。そんな生活を直ちゃんとできると思ったことが、そもそも私の間違いだったんだね。
直樹、うつむく

<ゆき> 結婚を持ち出したのも、子供を生むには年齢的な制限もあるから、焦っていたのかもね。だからそれをあなたはプレッシャーに感じたのかもしれない。人間って上手く行かないよね。心から想っていれば相手に通じるはずなのに、想いが強すぎると、逆に相手を遠ざけてしまうのかも知れないね。私は一生、直ちゃん以上に想える人は現れないと思う。これからどうやって生きていけばいいのか…。覚悟していたとは言え、ちょっと想像がつかない。
また号泣するゆき。直樹刺戟を与えないように配慮しながら

<直樹> ゆき、ゆきは今そう思っているかもしれないけど、いずれ、あぁ別れてよかったと思う日が必ず来るよ。もしオレと一緒になったって、幸せにはなれない。結婚してから気がつくよりずっといいだろ。でもゆきのしてくれたこと、そして心から想ってくれたことには感謝しているよ。
<ゆき> 感謝なんて言うなら、何故別れなくちゃいけないの。その女性に会わせてくれない? 私の気持ちを伝えれば、彼女だってわかってくれると思う。なんていう人なの?
<直樹> 彼女に会ったってしょうがないだろ。そんなの自分を傷つけるだけじゃないか。
<ゆき> でも女同士、話せば私が直ちゃんをどれだけ好きかわかってくれると思う。
<直樹> ゆき、問題は彼女の気持ちじゃなくて、オレの気持ちなんだよ。オレが彼女を好きなんだから。
<ゆき> やめて。彼女を好きなんて言葉、聞きたくない。
ビールをぐっと飲み干す ゆき

<直樹> ゆき、今日はそんな飲み方は止めてくれないか。大切な話をベロベロな状態で決めるなんて、意味がないじゃないか。
<ゆき> だって、だって、とてもじゃないけどシラフで聞けるような話じゃないじゃない。このまま全てが夢ならいいのに。出会ったころに戻りたい。
<直樹> ねぇ。このことで自分を卑下するのは止めてほしい。ゆきはとても魅力的な女性だし、ゆきに惚れる男は山ほどいるんだよ。現に…。
<ゆき> 現にって何? 何が言いたいの。そんなに魅力的って言ってくれるなら、何故別れなくちゃいけないの。私にはできない。
<直樹> この際伝えておいたほうがいいと思う。ロスにいるとき孝司からメールがあって、その後スカイプで話したんだよね。孝司が始めて、ゆきへの気持ちを告白した。あの寡黙な男があそこまで言うには、相当勇気が必要だったと思うし、それだけゆきを想っているんだと思う。
<ゆき> それがなんなの? だから松原さんと上手くやればってことなの? 別れたって後釜もいるからOKだと言いたいの? バカにするのもいい加減にして。松原さんの気持ちなら、昔からうすうす感じていた。でも私は直ちゃんが好きだった。この気持ちぐらい尊重して欲しい。
珍しく語気の荒いゆきに、直樹もしばし返す言葉がない。二人しばらく黙り込む。ついに直樹が口火をきる

<直樹> 別に孝司のことはそういう意味で言ったんじゃないよ。ただ彼の想いも伝えたいと思っただけ。それに人間時間がたてば、又気持ちも変わるよ。ゆきのありのままが孝司は好きなんだし。
<ゆき> いいから。もうその話は止めて。
<直樹> オレの気持ちは伝えた。この部屋にあるものも、今晩持って帰るから。長い間、本当にありがとう。いやらしい言い方かもしれないけど、心からゆきの幸せを願っているよ。
<ゆき> そんなの願わなくていい。幸せになんてなれるわけがないじゃない。自分のものも全部持って帰る。だから今日はここに来てくれたんだね。
紙袋に次から次へ直樹の荷物を投げ入れるゆき。直樹もその鬼気迫る態度に呆然と立ち尽くす。荷物を直樹に差し出すゆき

<直樹> じゃ行くね。これからも会社では会うけど、元気でね。別れたといっても友達には変わりないんだから、たまには食事でもしよう。
<ゆき> もういいの。今は何も考えたくない。じゃ、これからは友達で、なんて出来るわけないじゃない。もう生きているのもイヤ。
<直樹> そんなこと言うのはやめてくれよ。時間が解決するよ。またいつか笑って会える日がくる。
<ゆき> そんなの私にはあるわけない。
<直樹> じゃ、行くよ。
直樹、ドアを閉めて小走りに駅に向かう。ゆき、部屋で泣き崩れる。すぐに思い立たように、直樹を追いかける。遠くから直樹の姿を見つけて

<ゆき> ねぇー! ちょっと待って!!
直樹、振り返って止まる。ゆき息を切らせて走ってくる

<ゆき> 本気でこのまま行く気? こんなに簡単に別れられると思っているの? ひどいわよ。ひどすぎる。せめて今夜だけでも一緒に居てくれたっていいじゃない。そんなに急いで彼女に会いに行かなくちゃならないわけ?
<直樹> 彼女のことは関係ないだろ。どうしてゆきは自分をそんなに安売りするんだよ。こんなことしたら、憎んで別れるようになっちゃうだろ。プライドを持てよ。
<ゆき> プライド? 今プライドって言ったの? そんなの、そんなのもうずっと前に捨てたわ。プライドなんて相手を心から好きになったら、持っていられるものじゃないのよ。あなたは本気で人を愛したことがないから、そんなことが言えるのよ。あなたに人の痛みなんかわかるはずがない。一度誰かに痛い目に合わされればいいのよ。そうしたら少しは私の気持ちがわかるんじゃない。いつも理路整然と取り乱すことなくって、一度でいいから、泣き叫ぶところが見てみたいわ。
<直樹> ゆきの言う通りかも知れない。でもね。結局はオレも悪くない。ゆきも悪くないんだよ。要するにこれは人間の作り出す化学反応みたいなものさ。オレはゆきといると自分の悪い面ばかりが出てきて、ゆきに不愉快な思いをさせる。逆にゆきもオレといると、ゆきの悪い面ばかりがでてきて、オレをイライラさせる。わかるだろ?
<ゆき> そんなの空論よ。
<直樹> ゆきがなんと言っても、二人がいることで最高の化学反応を起こす間柄がベストだとオレは思う。
<ゆき> もういい! どうせ新しい彼女とはそうなんでしょ。私の気持ちなんてわかってもらえるわけがない。あなたなんかより、ずっと私を愛してくれる人を見つける。絶対に見つけるから。あなたの気持ちが又変わっても、二度と付き合わないから。本当にそれでいいのね。
<直樹> あぁ、そしてゆきには本当に幸せになってほしいんだ。
<ゆき> 鈍いわね。もうそんなの聞き飽きた。あなたこそどうぞお幸せに。また気が変わって、第2の犠牲者をださないようにね。そんなの私だけでたくさん。
<直樹> そんなに嫌味を言わないでくれよ。じゃ、今度こそ行くから。元気でね。
<ゆき> 私のことなんか、心配しないで。どうぞお好きに生きて下さい。
<直樹> もうそのくらいでいいだろう。じゃ。
直樹、振り返らずに駅に向かう。ゆきその場で泣き崩れる。直樹、ゆきのことで気が重いものの、これで節子に堂々とアプローチできると思い、気持ちが軽くなる。一刻も早く節子に会いたいと思う。

――直樹の部屋
直樹、部屋に戻り孝司にメールを打つ

(直樹のメール)
今、ゆきと会って、別れ話をしました。孝司の気持ちも伝えました。
全てはもうオレの手を離れた。後は孝司の気持ちに任せるよ。
また電話するから。

(孝司のメール)
連絡ありがとう。
ゆきちゃん、傷ついているんだろうなぁ。
それを考えただけでも胸が痛みます。
孝司、ゆきに手紙を書き始める


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