12星座の物語 第五話「彼女達の近況報告(節子)」

――節子の部屋
翌朝、携帯が鳴る。寝ぼけながら出る節子

<節子> もしもし
<麻美> 何よ、その声。二日酔い?
<節子> 当たり。わぁもうこんな時間か。支度しなくちゃ。
<麻美> 明日あたりどう? 久しぶりにみんなで会わない?
<節子> うん わかった。
<麻美> 6時ぐらいでいいでしょ。じゃ私の所で集合ね。
<節子> OK
節子、慌てて出勤の支度をする

――麻美の部屋
翌日の夕方 節子、部屋に入って行く

<節子> あれ美奈もう来てたの?
<麻美> 何よ。二人とも。同じ会社なのに。
<節子> 同じ会社といっても、私、今日は休みだもん。
頷く美奈

<麻美> あっそうか。それに部署が違うと結構話せないもんよね。
<節子> 芳枝はまだ?
<麻美> 銀行だから月末は忙しいんだって。それに例のごとく「こんなに急に決めるな。もっと前もって言っておけ」なんて言ってたよ。
<節子> まったく芳枝は先のことまで決めるのが好きだね。突然起こるこの楽しさを理解できないんだから。
<美奈> そんなもんかしらね…ところで麻美、また痩せたんじゃない?
キッチンでみんなの飲み物、つまみなどを用意している麻美。そこへ手伝いに行く美奈

<麻美> そうなのよ。そこがモデルの辛いとこ。太ると仕事取れないでしょ。いつもカロリーとの戦い。精神的に追い詰められるよね。まぁ私は神経が太いから平気だけどさ。要するに、モデルは肉体を切り刻んで生きているようなものね。時々自分が人間じゃなくて、物のような気がしてくる。
<節子> でも麻美はただのモデルじゃなくて、一流モデルだもの。どんな仕事でも一流でいるというのはすごいわよね。尊敬しちゃう。
<麻美> それはありがとう。でも、節子だってツアコンじゃ一流じゃない。
<節子> とんでもない。まだまだ上がいるわよ。あっ、でもよく考えればそんなにはいないかもね(笑) 麻美の言うとおり、私、結構いい線いっているかも。
一同 爆笑

<節子> 美奈だって、企画書書かせたら誰も太刀打ちできないよね。
<麻美> ちょっと、ちょっと、三人で褒めあってもしょうがない。だってみんな最高の女なんだからさ(笑) まずは乾杯しよう。
そこへ遅れて芳枝が入ってくる

<節子> 遅いな。もう待ちくたびれて飲み始めちゃったよ。
<芳枝> ねぇ、どうしていつもこう急に決めるの。もう少し前もっていってよ。
美奈、芳枝にグラスを渡し注ぐ。軽く頭をさげ、みんなに乾杯の合図をして飲む芳枝

<節子> 駄目だね。そういうの。批判するよりこうしている現実を楽しみなさい。
<芳枝> 私、苦手なのよ。不意打ちって。
<美奈> まぁ、みんな飲んでて。私用意するから。
キッチンへ行き、こまめに慣れた手つきで動き出す美奈

<麻美> やっぱり一家に一台、美奈だね。なんでもやってくれるんだもの。奥さんにするならやっぱりこのタイプだよね。
みんな頷く

<美奈> ちょっと、おだてないでよ。純情なんだから。
<麻美> ところで近頃、みなさんどう?
<芳枝> どうって、何が? 仕事それともプライベート?
<美奈> そりゃ、プライベートの方よね。愛なき人生なんて暗闇同然ですもの。
美奈おどけて言う

<節子> さすが魚座の美奈。愛こそ全てだものね。
<芳枝> 私なんて全然。この頃仕事一筋。何だか自分がパサパサになっていく感じがするわ。
<麻美> 何をいまさら言ってるのよ。元々芳枝は淡白じゃない…ね。
<節子> 私は色々ありますよ。
<麻美> 来た来た、一目惚れなんかしたの? また。
<節子> ちょっとその「また」って言うのやめてよ。そりゃ私はいつも一目惚れで始まるわよ。だけど、今回はその後が違うのよ。その感情がずっと続いてるってわけ。
<美奈> えっ、それってかなり本気じゃない。どんな人なの?
<節子> 同業者。
<美奈> まさか私達の会社の人じゃないでしょうね。
<節子> そこまでダサいことはしないわよ。前から知っている人にどうやって一目惚れするのよ。
<美奈> というと旅先で会ったわけね。
<節子> そういうこと。
<麻美> 今回エジプトだったわよね。じゃピラミッドの下でなんて言うんじゃないでしょうね。
<節子> ところがその通り。ドラマチックでしょ。何千年もの歴史に見守られてのスタートなんて。
<芳枝> まったく言うことが大袈裟なんだから、いつも。
<美奈> それで、どんな人なのか早く教えてよ。
<節子> どんな人って、まずハンサム。この上なくね。まぁ植物系の涼しげな男。私ほら、やっぱり面食いだから。性格は…陽気なミステリアスマンといったところ。
<麻美> うーん、何だかわかるような、わからないような。
<節子> もっともまだ二回しか会ってないの。あっちで一回。東京で一回。
<美奈> でも節子はいつだって時間なんて関係ないじゃない。パッと燃え上がるから。一度決めると。
<節子> その通り。パーッと燃えてるわけよ。ここまで、はまったのはホント珍しいよ。全て私の好きな感じ、あぁちょっと理屈っぽいけどね。でもバカな男で理屈っぽいのは耐えられないけど、これがまた切れるんだ。たまらないね。
<芳枝> いやぁ、恋の真っ只中でこれだけ明るく話せるんだからいいよね。イヤミじゃなくて、心から羨ましいわ。私もそんな風に自分の気持ちに忠実に、かつ素直に生きてみたいわ.…本当に。
<麻美> 素直というより、単純なの節子は。わかる?
<節子> そう、そういうこと。だって私複雑な人間なんかになりたくないもの。シンプルイズベストよ。
<美奈> 節子の気持ちはよくわかったけど、相手はどうなの。他に彼女がいるとか…
<節子> どうかな。よくわからない。今は私が思っていることで頭がいっぱい。でもいるかもしれないね、いゃ、いないかな…。でもあれだけの男を、他の女が放っておくわけないだろうなぁ。
<美奈> ちょっと、ちょっと。まずそこが基本じゃないの。相手の気持ち。思ってくれないなら、始まらないじゃない。ねぇ、同業者ってどこの会社?
<節子> グローバルだけど。なんで?
<美奈> グローバル? あそこなら私の大学の時の友達がいるわ。もう何年も会ってないけど。ちょっと探り入れてみる? 彼のこと。
<節子> いいわよ。そんな面倒くさい。
<美奈> 名前は? それだけ教えて。
<節子> 石和直樹。でも本当に何もしなくていいからね。私そういうの嫌いだから。
<美奈> わかってる。わかってる。
<節子> バカだね。美奈は。心配してくれるのは嬉しいけど、人を思うということは、相手がどうのこうのっていうことじゃないの。まず自分が思っていることが 大切。それさえあれば、後は思いっきり努力するだけ。それでも思ってくれなかったら、それはしょうがない。
<麻美> わかる!  これぞ節子の全て。
<芳枝> 美奈も節子も形は違うけど、とにかく情熱的だからいいよね。私はどうしても、そうなれない。それが一番辛いとこよ。
<麻美> 芳枝は気取りすぎてるのよ。私も人の事は言えないけど、私は威張っているだけだからね。
一同 吹き出す

<節子> 麻美は威張りすぎ。女王様だから、しょうがないけどね。
麻美、得意げにポーズを決める。

<芳枝> 私ちっとも気取ってなんかいないわよ。
<麻美> そうかなぁ。でも男性からはそう見られるじゃない。
<芳枝> そうみたいなのよね。それが困っちゃう。
<美奈> ねぇ、節子、次の約束はもうしてるの?
<節子> ううん。まったく。でもいいの電話するから。
<芳枝> そういう風にドキドキしないで掛けられるというのがいいよね。
<節子> ドキドキはするわよ。そりゃーね。でも会いたい気持ちの方がずっと強いから…
それぞれの仕事のことなどしばらく雑談。まず芳枝が立ち上がる

<芳枝> さーて、明日も仕事、皆そろそろ引き上げない?
<節子> そうするか。
みんな玄関に向かう

<芳枝> じゃ ご馳走さま。今度はもう少し早く知らせてね。
<節子> まだ言ってるよ。ホントありがとう。またね。
<美奈> ごちそうさま。おやすみ。
<麻美> 気をつけてね。送らないけどまたね。バイバイ
――帰りの電車の中
節子、携帯をチェックする。直樹からのメールが入っている。慌ててメッセージを読む。

石和です。金曜日はありが
とうもっと早く電話したか
ったんだけど、あんまりしつ
こいと嫌われちゃうからね。
でもこの2日間が一年位に
感じちゃったよ。 今週、時間
があったらいつでもいいから
連絡してでは姫、おやす
みなさいませ
読み終わって思わずニヤニヤしてしまう節子。すぐに返事を打つ

メールありがとう今週なら
いつでもOKです。明日電話
するね