12星座の物語 第二話「ゆきと」

――東京 直樹の会社 夕方
報告を終えて帰ろうとする直樹 ゆきが駆け寄ってくる

<ゆき> いつもの所で7時でいい?
<直樹> うーん でも今日は本当に疲れてるからなぁ。どっちかと言うと直接帰りたいんだけど・・
<ゆき> そう じゃこのまま帰って何か作ろうか。
<直樹> ううん いいよ。7時に会おう。
<ゆき> いいの?うれしい~
会わなければ許されないし、かといって家に来られて女房面されるのもイヤだと直樹は思った

――居酒屋
学生や社会人があちこちにグループを作って騒いでいる。
ゆきカウンターに一人座っている あわてて入って来る直樹

<直樹> ごめん 待った?
<ゆき> 大丈夫。今私も来たの。でも寂しかったぁ・・ずっと会えなかったから。
甘えるようにちょっと口を尖らせて上目づかいに言うゆき。そんな仕草が暑苦しく感じる直樹

<店員> お飲み物は?
ゆきを見るとまだ何も頼んでいない

<直樹> それじゃ まずビールもらおうかな。ゆきもそれでいい?
うなずく ゆき

<店員> はーい、お待たせ
<直樹> あっすみません。じゃ 乾杯!!
<ゆき> 無事帰って来てくれたことを祝って 乾杯!!
ところでどうだった? 忙しかった?
<直樹> いつもと同じだよ。特に変わったこともないし。
<ゆき> 暑かったでしょ? あっちは。こっちは毎日寒くて。
<直樹> そうだね。今日もちょっとこたえるなぁ 暑い所の後だと。
<ゆき> 風邪ひかないでよ。心配だわ。
<直樹> なんだよ。まるでおふくろみたいな言い方だなぁ。
<ゆき> だーって心配なんだもの。ねぇ
直樹の腕を掴みながら
<ゆき> 向こうにいる時、少しは私の事考えてくれた?
<直樹> そんなの当たり前だろ。毎日考えていたよ。
<ゆき> うれし~い、私なんだかもう酔ってきちゃった。
<直樹> 何言ってるんだよ。まだグラス半分も飲んでないじゃないか。いくらゆきが弱いって言ったってさ。
ふっと節子を思い出す直樹 アイツは強かったな 今はまだイタリアかな・・
思わず微笑む直樹

<ゆき> どうしたの ニヤニヤしちゃって。何を考えているの?
<直樹> えぇ別に 何も考えてないよ。疲れ過ぎるとオレって頭ばかり回転しちゃうんだよね。
<ゆき> ところでー いつ私の両親に会ってくれるの?
<直樹> いつって、いつでもいいけど。なかなかチャンスないしなぁ。改めてというのもなんか緊張するし。
<ゆき> でもどうしても会ってほしいの。もし、なおちゃんも本気に将来を考えてくれているなら・・わかるでしょ?
<直樹> そりゃわかるけど。なんか、そういう形式ばったのは憂鬱だなぁ
<ゆき> 勿論 私に対して本気ならだけど。
<直樹> 本気だけど、それイコール両親に会うということでもないんじゃない。
<ゆき> だけどぉー
<直樹> まぁ考えておくよ、その事は。
煮え切らない直樹に苛立つゆき、無言の圧力を感じ気が滅入る直樹

――居酒屋の前の路上
寄り添って出る二人 ゆき、直樹の腕に手を絡ませる

<直樹> じゃ 今日は悪いけどこれで帰る。
<ゆき> 私、今日行っちゃだめ?
<直樹> だめとかそういうことじゃなくて、オレ疲れてると性格悪くなるから。来てもらってもきっと楽しくないよ。
<ゆき> いいの。そんなこと。邪魔しないでいるだけだから。
<直樹> でも話もしないでただ一緒に居たってしょうがないだろ?
<ゆき> 私は一緒に居られるだけでいいんだけれど…ここでいつもなおちゃんと考え方がズレちゃうのよね。お願いだから行かせて。
<直樹> 頼むからそれ以上言わないでくれよ。こっちも言わなくてもいいことまで言っちゃうから。
<ゆき> 言わなくてもいいことって何?
<直樹> とにかく頼むから 今日は帰って。
<ゆき> そこまで言うならわかったわ。でもたまには私の寂しい気持ちもわかって。ずっと会えなかったんですもの。
<直樹> きっとオレがわがままだからいけないんだね。とにかく今日は取りあえず帰ろう。
急ぎ足で歩き始める直樹 後ろを追い掛けるゆき 大声で直樹を呼び止める

<ゆき> ちょっと待ってよ。ねぇ ちょっとでいいの。
<直樹> えっ
冷たく振り向く

<ゆき> お願い もう少しだけでいいから一緒にいて。少しだけでいいから。
<直樹> もう勘弁してくれよ。
ゆき顔色が変わる

<ゆき> そんな冷たい言い方しないでよ。 あなたが帰りたいのもわかるけど、少しは私のわがままも聞いてくれたっていいじゃない。
<直樹> 少しは? 今なんて言ったんだよ。少しはって。いつも聞いてるつもりだよ。そんなにオレのことが気にいらないなら・・
<ゆき> もうそれ以上は言わないで。
<直樹> じゃ 本当に行くから
さっさと歩き始める直樹

――京王線ホーム
電車を待つ直樹 ホームの端から血相を変えて走って来るゆき

<ゆき> あなたって本当に冷たいのね。私を一人あんな所に置いてよくさっさと帰れるわね。平気なの?心配じゃないの?
<直樹> ゆき、ちょっとこっちを向いて。もう何回も説明しただろ。オレはゆきの事を大切だと思ってる。わかるだろ?それは。だからそんな風に自分を安っぽくするような行動は取らないでくれよ。もっと毅然としていてほしいんだ。これ以上そういう態度をされるとオレの気持ちも変わってしまうと思う。もしそれでもいいならいくらでも付き合うよ。
<ゆき> わかったわ。ごめんなさい。今日は素直に帰ります。
<直樹> ありがとう。わかってくれて。
電車が入ってくる。ゆきの手を握りしめる直樹。半べそをかいた顔で作り笑いをするゆき。 電車に乗り込む直樹。見送るゆき 一人小田急線に向かう。