12星座の物語 第十一話「孝司の告白」

一日のツアーを終え、部屋に戻る直樹。ツアー客の夕食前にシャワーを浴びる。しばらくすると節子から電話が入る

<節子> 戻っていたんだね。疲れたでしょ。
<直樹> ちょっとね。気の重い一日だった。
<節子> それはしょうがないわね。自業自得だもの。
冷たい節子の言い方に、気分が滅入る直樹

<直樹> 今日何時ごろなら大丈夫? 明日からはオープションツアーも多いし、たぶん会えないよね。
<節子> 9時ぐらいに集合しない? 今日は私が直樹の部屋に行くから。
<直樹> わかった。待ってるよ。
いつもはクールな直樹も何故か冷静な気持ちを保てない。夜までに全て仕事を片付けようと思い、メールをチェックする。孝司からのメールを受信

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孝司からのメール
元気か。確か時差は17時間だから、そっちは夕方かな。(今こちらは夜の11時)
ゆきちゃんからも聞いていると思うけど、この前彼女と会ったんだよね。
それについてはメールではとても書ききれないから、時間できたら、スカイプして。
今日は遅くまで起きているから、いつでもいいよ。じゃ待っているから。
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夕食まで1時間あるのを確認し、直樹、孝司にスカイプする

<直樹> もしもし、孝司?
<孝司> あぁ、よくかけてくれたね。忙しくって無理かなと思っていたんだけど。
<直樹> ちょうど時間が空いてさ。夕食まで時間あるから、全然平気だよ。ゆきのこと、色々迷惑かけちゃったみたいで、ごめんな。
<孝司> 迷惑なんてまったく受けてないけど、それより可愛そうなのはゆきちゃんだよ。この前二人で話したって、ゆきちゃんから聞いただろ。
<直樹> うん。出発前に手紙もらってさ。そこに書いてあった。松原さんからもメールが来るかもって。
<孝司> まぁ手短に話すけどさ。今、他の誰かと付き合っているんだろ。この前会った時にそんなこと言っていたから、オレはわかっていたけど、彼女にそのこと聞かれてさ。「友達なんだから何か聞いていませんか」って。勿論何も知らないといったけどね。
<直樹> そうか。実は彼女、オレの後を付けたらしいんだよね。それでオレが他の女性と会っているのを見たらしいんだよ。まぁそれが誰なのかはわかっていないし、それを説明して欲しいということなんだけどね。
<孝司> そのことはオレにも話していたよ。「こんなことする自分が情けない」って。何だか痛々しくって、どんな言葉をかけて言いかわからなかった…。
<直樹> オマエにまでそんな余計な心配をかけてしまって、ホントごめんな。自分の問題なのに、友達まで巻き込んでしまって、最低だな、オレって。
<孝司> そんなことは気にするなって言っただろ。それより彼女の気持ちだよ。かわいそう過ぎるだろ。はっきりしてやれよ。たとえ、別れるにしても、今の状態よりいいだろ。このまま月日が流れていったら、もっと傷つくことになる。
<直樹> わかっている。孝司の言うとおりだよ…。何でいつもこうなっちゃうのかな。時々自分でも自分がイヤになるよ。
<孝司> 直樹、じゃ、気持ちははっきりしているのか。
<直樹> あぁ、この事件を通じて、自分でも誰が大切なのか見えてきた。
<孝司> じゃ、ゆきちゃんを大切にしていく覚悟が決まったんだな。
<直樹> いや、ゆきとは別れる。帰国したらはっきり伝えるよ。もう決心した。
<孝司> オマエ、本気でそんなこと言っているのか。あんな素敵な女性、絶対いないぞ。
<直樹> わかっているよ。いい子だってことも、オレにずっと愛情を注いでくれることも。そして暖かい家庭を作って、子供を育て、疲れたときもきっと尽くしてくれることも。でもね、それってオレが求めている夢じゃないんだよね。オレが求めているのは、毎日新しい発見があって、日々成長できて、刺激的でいつまでも飽きないような生活なんだ。
<孝司> 今はそれでもいいかも知れないけど、そんなこと、年を取ったら続かないだろ。安定感も安らぎもない生活なんて。若い時だけのものだろ。
<直樹> そうかも知れない。でも自分の気持ちを偽ることはできないんだよ、これ以上。
しばらく沈黙する孝司

<孝司> じゃ、聞くけど。もしもオレがゆきちゃんにアプローチしたいと言ったら、直樹はどうする?
<直樹> 孝司、オマエはずっとゆきを好きだったんだろ。オレは気付いていたけど、知らないふりをしていた…。
<孝司> そうか…、わかっていたのか…。それなら言うけど、彼女はオレの理想のタイプだよ。わかるだろ。彼女以上の女性はちょっと想像がつかない。だからこうして一人でいるわけだ…。人の彼女をずっと想うなんて、自分でも情けないけど、どうしようもなかった。直樹を通してでもいいから、彼女に会いたかった。それだけでもまったく会えないよりいいと思っていた。でも今回二人で話して、彼女のオマエに対する想いに接し、正直打ちのめされたよ。「こんなにも直樹を想っているのか」とね。でも、正直そんな彼女だからこそ、好きなんだ。一度直樹にはこの気持ちを言おうと思っていた。でもどうしても言えなかった。それに親友の彼女に手を出すなんて…。悪い、少し酒が入ってベラベラと余計なことまでしゃべったな。
いつになく饒舌な孝司。今までの思いを吐き出すような言葉の数々に、直樹は改めて孝司のゆきへの思いに圧倒される

<直樹> よく話してくれたね。ありがとう。もっと早く気付くべきだったのかもしれない。いや、気付いていてもオレの気持ちが整理できていなかったのかも知れない。こんなことは、オレが決めることではないけど、帰国して彼女に話すまで、孝司の気持ちを伝えるのは待ってくれるか。オレから彼女に伝えたほうがいいと思う。
<孝司> 勿論だよ。もう何年も待っていたんだから。ここに来て2~3日なんて、何でもないことさ。でも直樹、本当にそれでいいのか。
<直樹> 孝司、オレを気遣ってくれるのは嬉しいけど、もっとわがままになれよ。自分の気持ちに忠実に生きてくれたほうが、友達として、オレも嬉しい。もしゆきへの想いが今も残っていたら、きっと勝負したと思うけど、今はその気持ちすらない。それだけオレの気持ちは彼女から離れてしまったんだ。
<孝司> お礼を言うのも変だけど、直樹…ありがとう。
<直樹> 何、バカなこといっているんだよ。ただ1つ聞きたいことがある。ゆきがオレの彼女だったこと、オマエは本当に平気なのか。
<孝司> 当たり前じゃないか。平気じゃなかったら、ゆきちゃんにこんな気持ちを抱くわけがないし、オマエに話すこともないだろ。
<直樹> それを聞いて安心した。また東京に戻ったら連絡するよ。そのときゆっくり話そう。
<孝司> わかった。じゃ気をつけて。連絡待ってるよ。話せて良かったよ。
スカイプを切りながら、複雑な気持ちの直樹。これで良かったと思う一方、一抹の寂しさが心をよぎる

直樹(独り言) 男って、自分勝手な生き物だよなぁ。
夕食の会場に向かう直樹。現地ガイドと明日のオープションツアーの打ち合わせを済ませ、急いで部屋に戻る。節子が来たら、何から話そうか、頭の中を様々な考えがかけ巡る。約束の時間になっても節子いっこうに現れない。部屋に電話をしても出ない。直樹だんだん心配になってくる

直樹(独り言) 何かあったのかなぁ。それにしても連絡が来そうなものだけど
10時半、部屋の電話が鳴る

<直樹> Hello あっ節子? 何かあったの?
<節子> 連絡遅くなっちゃってごめん。実はお客さんの一人が急に気分が悪くなっちゃって。日頃から心臓が弱い人なので、緊急で病院にお連れしたの。今まだ病院で、落ち着くまでは戻れないから、今日は無理そう。
<直樹> それは大変だね。きっと何かあったんだろうと思ったけど、連絡が取れなかったから。僕にできること何かある?
<節子> ありがとう。でももう病院にいることぐらいしかないから。
<直樹> そうか。じゃ明日は早いし、ツアー中はもうきっと会えないね。こんな状態だし、ぜひ話したかったけど、しょうがないね。
<節子> 私も勿論話したかったけど、お互い冷却期間を設けたほうがいいかもよ。
<直樹> 僕はすぐ話したいけど、たぶんもう会えないと思うので、じゃ、東京に帰ったら、すぐ連絡するから。
<節子> わかった。じゃお互い残りのツアー頑張りましょう。
<直樹> そうだね。何度も言うけど、急いで結論は出さないでね。
<節子> うん。でもスピードが命の私にそれはとっても酷なことだけどね。
<直樹> それもわかっているけど。今回だけは話をするまで待ってほしい。
<節子> 帰国も同じ日だよね。便が違うだけでしょ。
<直樹> うん。じゃ東京で。お客さん、明日は大丈夫だといいね。じゃお休み。
<節子> じゃね。
節子、直樹と会えないのは辛いが、まずは自分の考えを整理するいいチャンスだと思った。今晩会ったら、意味なく怒りをぶつけそうだと思った。そんな態度だけは避けたかった。直樹、この気持ちを東京まで持ち越すのかと思うと気が重かった。そしてこの瞬間、節子を心から愛していることに気付いた